そんなに簡単じゃない-ネパールの水事情
ネパールには水はたくさんありますが、貴重品でもあります。ネパール在住の私からすれば、日本と比べてものすごく節水が必要になります。
水がたくさんあるのに、水に苦労する国。それが、ネパールです。
観光にいらっしゃる方は、飲料水はどうすればいいのか、シャワーは浴びれるのかと不安になると思います。ネパールのカトマンズ盆地内の水事情をお教えします。
ネパールの淡水の量は世界有数!?
地球は表面積の7割が水で覆われていると言われており、そのうち97.5パーセントは海水と言われています。海水は生活用水にも飲料水にも適しません。魚が住むには良いけど、人が使うには都合の悪い水です。
人が生活用水として使うことができるのは塩分を含まない淡水です。湧き水や地下水であったり、川や雨から手に入る貴重品です。
古い資料ではありますが、農林水産省のH23年のデータでは世界の淡水の2.27パーセントはネパールで手に入ります。これは世界で第2位の値だそうです。トイレも風呂も飲み水も、ネパールなら使い放題というわけです。
一年中雪をかぶっているヒマラヤもありますし、雨季には大量に雨が降ります。洪水だって起こります。
では、なぜネパールでは水が無いのか?
ネパールで生活用水が枯渇する原因とは?
ネパールはアジアの極貧国であり、インフラが整っていません。そのため、余りまくっているはずの淡水の多くは有効利用されず、インドに流れていってしまうのです。
一部有効利用としては、水力発電に使われています。というか、ネパールで電力を生み出せる唯一の資源は水しかありません。風力や太陽光は設置して維持していく費用を払えません。そもそもダム建設すら他国の援助に頼る状況です。
北海道の2倍ほどしかない国土ですが、大半は山とジャングルに囲まれており、都市部に人口が集中しています。そのため、水の供給が全く追いついていません。
カトマンズ中心部は水道が通っているものの供給不足になっています。数年前には毎日、または2日に一度水が来ていたそうですが、今は5日~7日に一度しか水が来なかったり、10日以上水が来ないことも多いです。
では、住民はどうやって水を手に入れているでしょうか?
水はどうやって確保するのか:公共の水と個人の水
公共の水は2種類あります。
公共の水-その1:ドゥンゲダーラ
これは、ドゥンゲダーラという場所です。
ドゥンガは石、ダーラは水道です。合わせてドゥンゲダーラ、つまり石でできた水道です。世界遺産になっている旧市街では地面より低い位置に作られた公共の水道があります。
多くは湧き水ですが、内部に水道がつながれているものもあるようです。
完全に枯れているものもあれば、乾季以外は水がずっと出ているものもあります。
昔は、通りに一つこういうのがあって、みんなが水を汲みに来たそうです。今でも、水が出ている時には汲みに行く人も多く、体を洗う人もいれば、洗濯をする人もいます。水が溢れているところでは、子供たちが水遊びをしていたりもします。
多くの場所は殺菌すれば飲める水である場合が多いようです。
公共の水-その2:サルバジャニックダーラ
他にも、サルバジャニックダーラがあります。
サルバジャニックというのは「公共の」を意味するので、公共の水道です。多くの場合、蛇口は付いておらず、水は垂れ流しです。
水源から日替わりで地区ごとに水が送られてきます。早朝から10時ぐらいまでなのですが、この水は飲むことができる場合が多く、早朝からこの前に空のタンクが並びます。
順番に水を汲み、家に持って帰ってから、加熱したり簡易のフィルターを通して、料理に使ったります。
タライに水をためながら、この近くで洗濯をする人もいます。朝出かけると、近所の人が「今日は水が来てるよ」と教えてくれます。その知らせを聞いて、空の容器をもって水を汲みに走る人もいます。
部屋を借りて住んでいる人は大抵この方法で水を汲んで貯めています。大家さんが建物の水道を使わせてくれない場合が多いからです。
個人の水-その1:ベクティガットダーラ
これは、写真の右下から出ている水道管がそうです。これには、メーターが付いており、その先のパイプに蛇口が付いています。
これは、契約している人が自分の家にひいている水道です。もちろん、水が来る日にしか水道は出ません。
リングロードの外側は水源から引いている場合が多く、週に何日も水が来たります。しかし、リングロードの中は現在は殆ど機能していません。
水が来ている時に、この水を容器に入れて貯めておきます。ですから、オイルやペンキの丈夫な20リットル缶は水汲み用に大人気です。他にも、ポリタンクなどが使われます。
個人の水-その2:イナル
イナルとは井戸の事です。
ネパールではかなりの家が井戸を使用しています。自分の敷地内に井戸掘りの人を呼んで掘ってもらい、セメントのリングを埋めて井戸を作ります。大体直径90センチくらいのリングが通常です。
大体、深さは10メートルから15メートルくらいなのですが、人口密集地ではさらに深いものもあります。
この水は検査が必要です。最近は、下水管の設置進んできていますが、まだまだ敷地内にトイレの浸透式タンクを作っている家も多いです。そのため、井戸の水は大抵汚染されています。
手押しポンプを取り付けている人もいれば、電動の井戸ポンプを沈めている人もいます。
水が豊富な川知覚などではボーリングしてパイプを挿しただけで手押しポンプで水を吸い上げられるところもあります。
ちなみに、公共の井戸もあるのですが、最近では廃止される傾向にあります。
公共の井戸は巨大で直径2メートルを超えるものも多くあります。
個人の水-その3:テャンカーボラウネ
テャンカーとは給水車の事で、ボラウネは「呼ぶ」です。ですから、給水車を呼ぶという事です。
多くの家には地下タンクがあります。そこに水を購入して貯めておくことができます。大抵8千リットルから1万リットルくらいですが、小さいものもあります。
大体、8千リットルくらいのものが多いです。一度呼ぶと1500ルピーか、それ以上かかります。もっと大きいものもありますが、路地の中に入れないことが多いので、この程度のサイズを呼ぶことが多いです。
雨季や雨季が終わって間もない頃は呼んで当日にやってきたりしますが、乾季の終わり頃になると電話しても数日待たなければならない場合もあります。
さらに、小さいサイズもあって1000リットルとか、1500リットルだけを呼ぶ場合もあります。
このような小さなものは、トラクターに水タンクを載せた状態でやってきます。
これなら小さな路地の中まで入れるのですが、単価的に値段が高くなってしまうようです。どうしても水が欲しいという時にしか呼びません。
ネパールの家の水道システム
水道の蛇口を開いていつでも水が出て来るなんてのは、日本のような発展した国だけです。
ネパールでも、タライの一部地域を除けば、水道は宅内で完結します。
というのは、水源から供給される水道水は水圧が低く、2階以上に上げることはできません。ですので、水道が完備されていても、ちょろちょろとしか出ません。
使うとしても、容器に水をためるか、地下タンクに流し込む以外の用途には使えません。
写真で気づく通り、ネパールの家はほぼすべてに屋上にタンクが設置されています。
小さいもので200リットルや300リットルもありますが、大抵は500リットルが1000リットルのタンクを設置します。タンクは2000リットルや、もっと大きいものもありますが、地震を恐れて最近は大きなものを設置しません。
地下タンクや井戸からポンプで屋上のタンクに上げておき、そこから落ちてくる水を宅内の水道管につないでいます。
ただ、自動で水を足せる仕様ではないため、蛇口から水が出なくなったらポンプで水を上げるというパターンが多いです。そのため、「水が出なくなる」というシチュエーションは日常的に発生します。
また、井戸から直接上げると砂などが混入するために、蛇口が詰まることもあるので定期的に蛇口の清掃が必要です。
重力で落としているだけなので、シャワーなどの水圧は弱く、屋上に近いと勢いが足りません。
とにかく、水はあるときに使うしかありません。寝る前にシャワーを浴びようと思っていても、水が出ない事も十分あり得ます。思い立った時に水があればすぐにシャワーを浴びるようにしましょう。
いつかきっと来る「メランシー」の水
カトマンズ盆地内、特にリングロードの中は、上下水道の工事がここ数年間ひっきりなしに行われています。
カトマンズやパタンの家の玄関付近から黒パイプが顔を出しているのをご覧になったことがありませんか?
アレは、カトマンズ盆地北東のメランシー(正確にはメラムチー)という水源の水がもうすぐ水道に引かれることになっており、その引き込み管です。
一昨年は「来年には来る」といわれ、去年は「10月には来る」といわれ、もうその翌年の11月が終わろうとしています。
この水道が開通すれば、カトマンズ盆地内のほとんどを賄うことができると言われています。現在、メインの水道管を引く作業と、各家につなぐ水道管の工事が急ピッチで進められています。
工事がものすごく適当なのと、5年でパイプ交換が必要と言われる弱い水道管を各家の玄関に飛び出さしてすでに3年くらい経っていることを考えると、開通した瞬間に町中が水浸しになること必死かと思われます。
ちなみに、私が住んでいるところは供給エリア外なので、いつまで待っても水道が来ることはありません。。。私には関係のない話。ていうか、手近な水源からの水道すら来ていないのですがね。
飲料水は何を使用するのか?
飲料水は基本的に購入します。
写真はジャルパニといって、20リットルのタンクで、新規購入時のデポジットは400ルピー、空のタンクと交換は50ルピーです。
この水は水源近くの工場で大型のRO浄水器を通しているらしく、普通に飲むことができます。レストランなどで無料で提供される水もこの水です。
しかし、回収した空タンクを洗わずにリフィルしたり、フィルターが古くなっているのに交換しなかったりで、水が悪くなっていることも良くあります。この水を飲んで病気になったというネパール人もよくいるので、安心はできません。
気になるようなら、1リットル25ルピーのボトルの飲料水(カネパニ)を購入すればよいと思います。日用品店なら大抵どこでも手に入ります。
ちなみに、水源からの水道の水や、水質チェックをして問題がなかったといわれる井戸の水などをネパール人は飲んでいますが、外国人はやめた方が良いです。大抵お腹を壊します。
我が家では、井戸の水をRO浄水器を利用して浄水しています。RO浄水器は日本よりかなり安く、数年住むのであれば元を取ることもできるかと思います。
RO浄水器に関しては過去記事の「飲料水のやりくり」をご覧ください。
まとめ:ネパールでの飲料水に関して
水は毎日飲むものですし、健康に影響するので、多少お金を掛けても安全なものを使用されることをお勧めします。
お泊りのホテルやゲストハウスの水道の水が、水源から持ってきた給水車の水か、浸透式下水層の近くの井戸から引き揚げた汚染水かはパッと見ただけでは分かりません。うがいのために口に含むのも止めた方がいいと思います。
旅行であればボトルの水を買ってください。お住まいの方であればRO浄水器を設置される事をお勧めします。
では皆さん、是非とも安全な飲料水ライフを。
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